Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

  “Sweet xxx”
 

 

 暖冬に緩み切ってた正月を襲った“爆弾低気圧”が、今度はチョコレートで浮かれていた聖なる日に襲来し。突風混じりの雨で山間部では雪崩は起きるわ、平地では竜巻は吹き抜けるわ。西日本ではどさくさ紛れに春一番が吹いたりもし…と、とんでもない嵐が襲い掛かった今年の聖バレンタインデーだったりしたのだが、

 「瀬那も幾つか貰ったけど、それよか進さんが凄っごくいっぱい貰って来ててvv」

 お昼休みの教室にて。他の生徒たちの大半も今日は妙に寒いからと教室に居残っている中、特に仲のいい小さなクラスメイトくんが、やっぱり頼りなげな両腕で目一杯の輪を作り、その輪の先がくっつき切らない大きさにして見せて、
「こ〜んな大っきな箱にぎっしりって、学校で貰って来ちゃったんだって。」
 あんないっぱいあった贈り物の箱のお山だなんて、直に見たのは初めてだったと。ふわふわの頬っぺを真っ赤にしてセナくんが語るのへ、
「まあ、それはしょうがねぇだろ。」
 窓辺の席のお椅子に横座りし、横手になった机へ肘をついて。真後ろから射し入る柔らかな陽射しに金の髪を暖めながら。まだまだお子様な面差しへ、なのに妙に納まり返った苦笑を一丁前にも浮かべて見せて。小悪魔…もとえ、蛭魔さんチの妖一くんが さもありなんという声を出す。
「何せ“進清十郎”っていえば、全国レベルでの有名人だかんな。」
 今のところは“アメフト界”に限られてこそいるものの、高校最強の実力でもって全国レベルでその名とお顔を知られているお人で。さすがに“女性”と限った認知度となると、芸能人の桜庭と並べれば比でもなかろうほどに落ちるのかもしれないが、それでも…試合を観に来たギャラリーは言うに及ばず、対戦チームのチアリーダーだった子たちからまで、オクターブの相当に高いラブコールがかかるのは。実力や存在感に魅了されてのみならず、男らしくも精悍で凛としたその風貌がまた、やたら端正だったりするからで。住所は公開されていないが、だったらと学校宛てに送られてくる手紙やプレゼントは半端なそれではなく。彼の通う王城学園高等部では、空いていた教室を1つ、桜庭と彼への私書箱代わりにと毎年確保せねばならなかったほどだったとか。

  「けど。」

 そういった背景事情は判るとして、と。意味深にも中途で言葉を切った妖一くんへ、
「なぁに?」
 何とも屈託のないお顔を向けるセナくんであり。
「あ…いや、何でも…。」
「ウソ。ヒユ魔くん、何か言いかけた。」
 一旦 口にしかけたことを。そのまま容赦なく続けずに、途中で言葉を区切ったのは、言うつもりがなかったからで。こんな思わせ振りな物言いをしても いい相手かどうかくらいの分別はある…と言っちゃえる小学3年生ってのも凄いものがあるのだけれど。
(う〜ん)
“日頃 のほほんとしてやがるクセに。”
 何でこんな、どうでもいい時ばっか、耳聡かったりすんだよと。自分の迂闊さプラス、妙なときだけ鋭敏さを発揮したセナくんへもチッと内心で舌打ちをし、
「だから。あいつはさ、食べるものを粗末に出来ないとか言い出しそうな奴だから、まま持って帰りはしたとして。それを素直に自分で食べるのか?」
「うん。たまきさんが“絶対に食べてあげなきゃダメ”って。あ、でも、セナがお手伝いするのはいいんじゃない?って。」
 彼の姉上の言らしきものを思い出し、にっこり笑ったセナくんへ、
「けど、進って甘いものは苦手なんじゃ…。」
 というか。口にするものは全て、きっちりとカロリー計算していて、それで弾き出したもの以外は滅多に食べないと聞いている。チョコレートはなかなか高カロリーな食品だから、一度にそうは食べないのではなかろうかと思った妖一で。
「うん。全部は無理だってゆってたvv」
 だからね? セナにも好きなの持って帰って良いよって。カードとかついてるの外したやつ、いっぱいもらっちゃったvvとやっぱり嬉しそうにしておいでのおチビさんであり、
“まあ、置いといても腐りゃあしねぇだろうが。”
 それよりも、妖一がふと引っ掛かったのは。無邪気に笑ってそんな話を持ち出したセナの方。進と逢えなくて元気が出なくなったり泣き出したりしたほどなのだから、単なる知り合いのお兄さんへのそれ以上の“好意”を持っているのだろうに。そんな彼へのハートの贈り物の山を見て、何とも思わないものなのだろか。まだまだ幼い彼だから、悋気が起きるトコロまでは感情の分化進化が至っていないのか。
“…だよなぁ。”
 自分が相当におマセだって自覚がない訳じゃあなかったが、それでもね? 逢えないことへ泣き出したほど、好きな人といつも一緒に居たくって。寂しさから心が痛くなる、そんな感情を体感したことのあるこのセナへは、微妙なところで仲間意識のようなものを持っていた妖一くんでもあったようで。
“まぁだ、形にまでは なっちゃねぇってか?”
 そこまでの“おマセ”じゃあなかったかと、胸の裡にて吐息をつきかけたところが、

  「進さんはセナのことが一番好きだってゆってました。
   だから、他の子からのチョコは要らないだってvv」
  「お…。」

 うふふぅvvと、さすがにちょっとは恥ずかしかったか、頬を真っ赤にして笑ったセナであり。成程、だからチョコの山も気にならないし、おすそ分けにってくれれば“ありがとーvv”と素直に受け取れもするらしい。
“こんの ませガキがvv”
 自分がいつも言われてること、くすすと笑いつつ心の中にて言ってやる。変なの。別に仲間なんていなくても良いのになと、思ってる端から。でもねあのね? 何だかホッとしてる。そんな妖一くんへ、
「ヒユ魔くんはどうしたの?」
「何がだ。」
「だから昨日。葉柱のお兄さん、お迎ぃに来てたでしょ?」
 セナはお掃除当番で。だから一緒には帰らなかったのだけれども。いつものバイクのイグゾーストノイズがしたのを、教室から聞きつけていたらしく、
「葉柱のお兄さんだって、いっぱいいっぱいチョコもらったんでしょう?」
 一緒に食べた? ねぇ? 屈託なく訊くセナへ、
「お、おう。///////
 あれれぇ? 小悪魔様、お耳が赤いぞ?


   “うっせぇなっ! ////////






            ◇



 学校の授業は既になく、連絡伝達のための登校日以外は登校しなくていいという待遇の、高校三年生。そんな葉柱のお兄さんを、いつもの携帯コールで呼び出して。自主トレは済ましたからと、お兄さんのお家へ直行するのに任せての同行。シェルティのキングがじゃれかかるのを一通り構ってから上がったお部屋にて、
「どうせ山程もらったんだろ?」
 短く聞けば、
「全部“義理チョコ”だろうがな。」
 ひょいと持ち上げて見せたのが、バイクのシート下に入れてあった紙袋。溶けてんじゃねぇか? そうかもな、なんてな会話を交わしつつ、
“あったりめぇだ、馬鹿野郎が。”
 本命なんてな ちゃらけたもん貰って来やがったら、この場で粉砕してやって…と。むかっと来たそのまんま、胸の裡
うちにて悪態をつきかけて、
“…っ。”
 はたと我に返った。何だよそれ。そうまで判りやすい焼き餅なんか焼いてどーすんだ、俺。別に良いじゃんか、向こうから勝手に想うのはよ。ツラはイマイチだけど、がっつり鍛えてっし喧嘩も強いし。舎弟もいっぱい居て頼りにされてて、もてたって不思議はねぇルイなんだからよ。もっとど〜んと構えてろっつーの、俺。

 「…。////////
 「どうした? 耳、赤いぞ?」
 「う〜〜〜。//////

 指摘されてますます顔が熱くなる。何でもねぇよと、怒鳴ろうとしたそんな妖一くんへ、
「で? お前からは、今年はねぇのか?」
 そんな一言、放ってくれた。何だかだ言いながらもちゃんと、一昨年と去年と、色々と趣向を凝らしたチョコを下さってた坊やだったから。
「ないならないでも良いんだがよ。」
 でも何か、
「おかしなもんで、つい期待してた。」
 変な奴だよな、へへっと笑ったお顔が、あのね? チョコが欲しいからじゃなくて、坊やの律義さとか、お兄さんのこと好きだよって気持ちとかへと期待してたって言ってるの、

  “丸判りじゃんか。////////

 ほんっと、腹芸っての、出来ねぇ男なんだからよと。そうと思うと、何だか笑えてしまい。そして、

  「ちゃんとあるに来まってんだろ。//////

 がっつくんじゃねぇよなんて、わざとらしくも可愛げのない言い方をし。お隣りに腰掛けてたとこから立ち上がると、さっき部屋の隅のひじ掛け椅子へと降ろしたランドセルの方へと歩みを運ぶ。蓋を開けて掴み出したのは、何とも色気のないクラフト製の紙袋で。妖一くんが片手でぐっと掴んだ上の方は細い棒状らしいと判ったが、
「? なんだ?」
 ある程度の持ち重りがするのか、その手をそのまま下げるようにして持ってくる彼であり、ただのチョコではなさそうな気配。まさか手榴弾とか模擬刀とかいうんじゃなかろうな。バンッて鳴らして花火の代わりとか、細工のある模擬刀で、斬ったらそこからクラッカーが弾けるとか? ついつい色々と…何だか危険なプレゼンテーションものばかりを想像している葉柱だったが、それじゃあお誕生日のサプライズシャワーだっての。聖バレンタインデーは、そういった“コングラッチュレイション系”の記念日じゃなかろう。
「???」
 相変わらずに一筋縄ではいかない坊やだってこと、痛感させられつつも。何だなんだと、その袋を凝視していると、あと少しという間合いを残して立ち止まる。そして、

 「眸ぇ瞑れよ。」
 「はい?」
 「つ・む・れ。」

 堂に入った命令口調なのは今更で。なんで?どうして?と訊いたって時間の無駄だってことくらいは、それこそ学習しているし。こんなことくらいでヘソを曲げさせてもなと、逆に言やあ、それこそが年長者としての貫禄というか懐ろの尋の深さというかで、唯々諾々、聞いてやるもんだろうと。…この小悪魔坊やの並々ならぬ恐ろしさを重々知った上で、なのにそうと構えられるお兄さんだってところが、凄いぞ葉柱、凄いぞルイルイ。
(おいおい)

  「これでいいか?」

 窓辺の小ぶりなソファーに腰掛けたまま、顎を引いての心持ち俯いていたまんまで瞼を降ろした彼であり、
“あ〜あ〜、間抜け面してよ。”
 内心の表層部でこそ、そんな風に呟いたもんの。
“………。”
 いくら子供が相手でも、何にも警戒しないで言うこと聞いてくれたのが、実を言うと妖一にはじんわりと嬉しいことだったりし。そんなこと聞いてやんねとそっぽ向いたっていいのにね。そうしなかったのは…妖一くんの遊び心に付き合ってやろうと思ったからだろし。かてて加えて、
“これが阿含あたりなら…。”
 近寄るところを絶対に捕まえる気満々でいるに違いなく、油断なく構えてる気配が手元や目元についつい立つ。この小さな坊やがどれほどの悪戯好きか、しかも子供離れした手管をいくらでも繰り出せる人物か、重々知ってるルイだろに。
「………。」
 背もたれに引っかけた腕も、軽く組んだままな脚も、全身弛緩させてるのが判るから。ちっとも警戒してないのが判るから、

  “そんなルイんことが大好きな自分ってどうよ。/////////

 あ〜あ、終わってんな俺、だなんて。悪態をつきつつも、あらためて頬が赤くなるのは隠せなくって。いえいえ、そんなことを隠したくっての“眸を閉じて”では勿論なくて。紙袋の中、隠してたものをゴソゴソと引っ張り出すと、ちょっと緊張しつつも深呼吸をし、小さな手でその封を切って…さて。


  「………?」


 小さな足音は、忍ばせようという気配もないまま真っ直ぐに近づいて来ていて。すぐ前に立つと、こっちの肩をグッと押す。膝近くの腿へ軽く手を引っかけての、少しほど前かがみになってたそのままでは勝手が悪いらしい。されるまま、背もたれへまで身を譲れば、膝の上へと登って来る重みがあって。跨がりやすいようにと脚を閉じてやれば、
「…っ。」
 そこからの動作の速かったこと。もしやして体当たりかと思ったくらいの勢いで、ぐんっと身を乗り出して来て のしかかり。
「い…って☆」
 背中側へ後ろ髪をぐいっと引っ張られ、強引に仰向かされたもんだから、
「何しやが…っ。」
 るんだと、続けようとした口許が。濡れた柔らかいもので塞がれる。正確にはひたりと触れたのは端っこだけだったのへ、ああこれはと…子供相手にと思えば妙な反射があったものだが。頬を両方、小さな両手が包むみたいに支えて来やがっては、もはや従ってやるしかなくて。
「ん…。」
 いつぶりになんのかな。最後にキスしたのいつだった? ぎゃーぎゃー騒ぐことはさすがになくなったが、だからって、こんな物慣れてしまわれるのも、何か、寂しいというか、もちっと照れまくってて欲しかったかなとか、勝手なこと思って………たところが。

  「………っ☆」

 口の中へと流れ込んで来たものへぎょっとする。ちょっぴり刺すような刺激のある何か。こくんと飲み下せば、鼻へと芳香が抜けるこれって…。
「くぉらっ! お前、未成年が何を飲んでやがるっ!」
「…俺は飲んでないもん。」
 言った端から、刺激の強い味やら匂いやらが一気に鼻へと抜けたらしく。けほこほと咳をし始めるもんだから、小さな肢体を跨がらせたまんまで抱えると、ひょいっと立ち上がってサイドボードに足を運び、そこへと置かれた水差しに手を伸ばす。片手でグラスを持ち上げると、水をそそいで、
「ほれ。」
 差し出してやれば、こくこく一気に飲み干して、
「からい〜〜〜。」
「当たり前だ。」
 スコッチのストレートだぞ? ビールやワインの比じゃねっての。さっきまで居たソファーの方へと眸をやれば、脇卓の上に、紙袋から首が覗いてるボトルが見えて、
「バランタイン、か。」
 なんか安直じゃね? うっさいな、ビックリさせてやろうと思っただけだ。はいはい、十分ビックリさせていただきましたよ。小さなおでこへこつんこと、こっちのおでこを押し当てて、

  「いきなり大人みたいなこと、してんじゃねぇよ。」
  「…だってよ。////////

 言い淀んだところは大人みたいな逡巡ぶりだったが、向こうからしがみついてるおかげもあるけど、まだこんなして軽々と片腕だけで抱えられる小さな坊や。強すぎたアルコールのせいで涙目になってて、頬も赤くて。濡れてる口許、何でそんな煽情的なんだよ、お前。細い峰がすっと通った鼻梁の先、ちょっぴり赤くして、

  「俺、高校生の女には敵わねぇもん。」
  「………はい?」

 胸だってねぇし、化粧の仕方もしらねぇし。料理も下手で、甘え方も下手で。ぽそんと肩口におでこを乗っけて、そんないじらしいことを言い出すのはもしかして。飲んでもないほどのアルコールで、さては酔ったなと思いもしたが。

  「………そんな卑下するこたねぇぞ?」

 そういや、付け上がらせるようで褒めたことなかったもんな。素面
しらふじゃないなら、今だけそこへと便乗してやろう。小さな背中、ゆっくりと撫ぜてやり、

  「こんな別嬪、滅多にいねぇぞ?
   それに、頭も良いし、アメフトにずんと詳しいしよ。」
  「………。」
  「強気で、でも甘えたで。
   セナ坊を可愛がってるだけの、思いやりもあるしよ。」

 無言のまんま、そぉっと上げたお顔の、小さな頬をつついてやって。

  「それとも何か? 俺は面食いの乳フェチだとでも思ってたか?」

 訊くと、ん〜んとかぶりを振る。それから、ぎゅぎゅうとしがみついて来たのを、よしよしと撫でてやり、小さな重みを大事そうに長い腕の中へと抱え直して。相変わらずにびっくり箱な坊やを、

  “こいつめどうしてくれようか。”と。

 窓から昼下がりの余光が滲み入る、ほんわり温かな陽溜まりの中。押さえても押さえても沸き上がって止まらない苦笑に困りながら、ゆっくりと宥めてやることに専念していた、もう“元”がつく立場になったらしい、カメレオンズの総長さんでありました。







  〜Fine〜  07.2.16.


  *全然間に合ってない、聖バレンタインデー話でございます。
(苦笑)
   この二人の話って、思えば随分と久し振りですよねぇ。
   何か、あれもやんなきゃ、これもやんなきゃって毎日で、
   更新が微妙に遅れててすいませんです。

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